「ほうとう/山梨県」

2023年06月27日

ほうとう(餺飥(はくたく)は、山梨県を中心とした地域で作られる郷土料理。 かつて山梨では「ほうとうをうてないと嫁に出せない」 と言う文化もあった。基本的には小麦粉を練りざっくりと切った太くて短い麺を、カボチャなどの野菜と共に味噌仕立ての汁で煮込み、熱 いうちに提供される料理の一種である。必ずしも麺料理の形態とは限らず、たとえば一部地域では小麦粉以外の穀物を使用するものやすい とん的な小塊のもの、味噌の代わりに小豆や醤油で味付をしているもの、麺を冷やしてざるに盛り付けているものなどがある。また外食で は食べやすいよう麺が細かったり野菜以外に肉や海産物を入れて提供するなど様々である。一般のうどんのように煮た麺に各種素材や味噌 などの調味料を加えた調理法を取ることも稀である。なお、富士北麓の郡内(ぐんない)地方(郡内地方にはほうとうと同一の粉食文化の 起源を持つ郷土料理である「吉田のうどん」が存在する。)また、県外一般には、「ほうとう鍋」と呼ばれる料理もある。呼称は「ほうと う」が一般的である。一部地域では異称として「おほうとう」や「ニコミ(ニゴミ)」(山梨県内郡内地方の一部)、「ノシコミ(ノシイ レ)」(山梨県内河内地方)と呼ぶ場合もある。ほうとうの生地は木製のこね鉢(民俗語彙では「ゴンバチ」)で水分を加えた小麦粉を素 手で練り、出来上がった生地はのし棒を使って伸ばされ、折り重ねて包丁で幅広に切り刻む。うどんと異なり、生地にはグルテンの生成に よる麺のコシが求められず、生地を寝かせる手法は少ない。また塩も練り込まないため、麺を湯掻いて塩分を抜く手順が無く、生麺の状態 から煮込むところに特色がある。そのため、汁にはとろみが付く。現在では山梨県を中心としてほうとう専用の生麺が流通しているため
 に、それを使用する場合が多い。家庭用の市販品はうどんより幅広く、やや薄い形状である。料理店ではボリューム感を出すために極広厚 の麺を使うことが多い。また麺ではなく「みみ」と呼ばれる特殊な形状をしたものを用いる場合もあり、これはすいとん料理に近い。みみ を用いた場合は別に「みみぼうとう」と呼ばれる。汁は、味噌仕立てである。かつて味噌は、地域差もあると考えられるが、各家庭で手作 りされた甲州味噌と呼ばれる、米麹と麦麹の両方を使って仕込んだもので作られることが多かった。現在では米麹だけの信州味噌等の市販 品を購入して作る家庭が多いが、麹を好みの配合で手作りしたものや、県内の醸造所で作られている甲州味噌を使っている家庭もある。信 州味噌に近く塩気が強いのが特徴である。これにカボチャを煮崩して溶かしたものが美味であるとされるが、カボチャを溶かすまで煮るか 否かは地域差が有り、甲府盆地周辺では溶かすまで煮るのが良しとされるが、南部地域などではそこまでは煮ない。この甲州味噌の塩気と カボチャの甘味とが渾然一体となった奥深い風味がほうとうの美味さの最大の特徴である。出汁は煮干しで取り、家庭では出し殻もそのま ま入れられる。具は野菜が中心となり、夏にはネギ、タマネギ、ジャガイモなど、冬ではカボチャやサトイモ、ニンジンやハクサイ、シイ
 タケ、シメジなどのキノコ類を入れる。ほうとうは基本的にはカボチャを軸とした野菜山菜のみで具材は構成されており、鶏肉など肉類を 入れるものが登場するのは観光客目当ての郷土料理店が広く普及して以降の事である。一般的に家庭で作る場合は肉ではなく油揚げを入れ る。最近では「チゲほうとう」等、味噌仕立て以外のものも存在する。ほうとうは野菜のビタミン類や繊維質に特に富み、小麦粉や芋類に よるデンプン質、味噌によるタンパク質などバランスに優れた料理といえる。大鍋で作る事が多いので、余ったほうとうは再び翌日の食卓 に上る。とろみが出て味も熟れてくるので、この「沸かし返し」を作りたてより好む人も多い